お知らせ

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デジタル活用による儲かる経営づくり

働き手が2,000万人減る準備はできているか?

第1回

 

「生産性向上」や「デジタルによる効率化」が報道されない日はない。しかし、どこか他人事の人も多いのではないだろうか。地方で行政や企業を支援し続けて5年。私の目にはそう映る。

企業の現場ではFAXがまだまだ現役。社員同士の連絡はいまだに口頭、電話中心。工場や事務所には紙、紙、紙。今はそれでもいいかもしれない。しかし、これからはそうはいかない。

2025年時点で6,277万人と推定される労働人口は、2050年には4,864万人まで減少すると言われている。この人口減少の問題は確実に訪れる未来だ。今まで3人で回していた経理が高齢化し、1人、2人と辞める。ハローワークで求人を出しても、半年以上応募が来ない。そんな時代は目の前に迫っている。

そこで我々が取るべき手段はひとつだ。「人が増えないなら、仕事の方を減らす」。経理が3人から1人になったのであれば、労力を3分の1にするしかない。

長野県富士見町。八ヶ岳の山麓に豆腐屋「両国屋豆腐店」は佇む。冷涼な水を使った豆腐は長らく地元で愛されてきた。そんな両国屋の代表から「助けてほしい」と声をかけられたのは2017年のことだった。

実際に事務所を訪問して驚いた。壁一面に手書きの付箋やFAXがびっしりと貼り付けられていた。注文管理、製造計画、出荷、納品、請求、会計処理。これらすべてを代表一人が行う。朝早くから仕込みをし、疲れた体で事務作業をする。夜遅くまで続くこともあった。経理事務を行っていた母親は高齢化し、「そろそろ事務は引退したい」ともこぼしていた。

デジタル化以前は「豆腐のことを2割しか考えられなかった」という。「帰ったら事務作業しなくちゃ、在庫は足りるかどうか、仕入れは大丈夫か」、つまりは豆腐以外のことが8割、頭の中を埋め尽くしていた。代表は「常に黒いモヤが頭の上にある感じ」と表現し、苦しんでいた。

支援の結果、最終的には事務作業を年間600時間削減することに成功した。受注から製造、納品まで「kintone」というクラウドサービスで管理。会計処理はクラウド会計「freee」を利用し、ネットで完結、自動化したことで銀行へ記帳に行くこともなくなり、経理の母親も引退できた。

同店は受注管理、会計、給与計算、販売管理などを軒並みクラウド化した。ポイントは、複数のクラウドサービスを組み合わせて使っている点だ。

近年、クラウド型の様々な業務システムが登場し、会計や勤怠管理、販売管理など、経営者は自分の会社に適したサービスを選択し、組み合わせることで効率化を実現できるようになった。システムは「1からつくる」時代から、「欲しい物を選ぶ」時代へとシフトしたのである。

さて、省力化した両国屋豆腐店の現在はどうなったか?かつて事務作業に消えていた時間は、営業や商品開発など「攻め」の時間に変化した。人口減少が確実にくるこれからの時代。デジタル化というのは「時間づくり」「創造的な活動づくり」そのものである。

「今不要だから」ということでデジタル化を見て見ぬ振りをするのはやめよう。「10年、20年後、必ず必要になる」と知ったあなたは、今日から動き出せるはずだ。

 

井領 明広(いりょう・あきひろ)

つづく株式会社社長。長野県上田市を拠点に、企業のクラウド化・業務自動化を支援。

 


 

小売店が毎日タブレットをのぞき込むワケ

第2回

 

「軽減税率対策補助金」の話題が記憶に新しい。消費税率の異なる会計を楽に行うことを目的とし、タブレットレジ・POSレジの導入も補助対象だった。当社への問い合わせも急増し、20台以上の導入支援を行った。

キャッシュレス決済との連携も可能であり、POSレジひとつで小売ビジネスのデジタルトランスフォーメーション(DX)は一気に進めることができる。しかし、目先の“補助金”が目的となってしまい、「補助金があるから導入したい」という問い合わせが大半だった。

しかし、私は粘り強く訴えた。「たかがレジ、されどレジ」「小売店の心臓部分に関わる重要なデジタルツールなんです」「活用すれば、売上アップやコスト削減まで狙えるんです」と。

デジタルの価値は、使ってみれば分かる。つまり、使わなければその価値は分からない。とある土産品店S店も、最初はその価値を深く理解しないままレジ導入を検討していた1社だ。

S店は大量の土産品を販売している。アイテム点数は500以上。取り扱いをやめたものを含めれば、1,000点以上のアイテム数だ。ここで問題が出てくる。どの商品が売れ筋なのかが分からないのだ。

売り場に立つ従業員からの意見はバラバラだった。「これが売れている」と言う人もいれば、「そんなことはない」と言う従業員もいた。結果、本当に売れているものは何なのかが判断できず、商品の入れ替えができないままずるずると時間が過ぎていた。

そんな中、S店が導入したのは、リクルートが開発している「Air レジ」という、タブレットを活用したPOSレジだ。店舗が広いため、合計で6台のAir レジを導入した。

今まではレジ毎の売上を紙出力し集計していたが、同レジの導入によって、クラウド上で集約して確認することができる。これだけでも随分ミスと負担が減少した。

同時に、死に筋の把握にもメスが入った。今までのレジは「お会計をする」ための仕組みに過ぎなかった。それが現在では膨大な商品1点1点の売れ行きをリアルタイムに、その日のうちに把握できる。月末の棚卸を待つ必要はない。

「売れている」という誤認識は、土産品店ではよく発生する。友人が何かお土産を買うと、連れ添いの人にも芋づる式に売れることが多い。スーパーなどと違い、誰かと一緒に購入するという特殊性がある。その結果、スタッフは「この商品は売れているのでは!」と錯覚してしまうのだ。

しかし、Air レジのデータは嘘をつかない。データに基づいて死に筋商品の仕入れを減らし、売れ筋商品はポップを工夫したりしてもっと売れるように努力する。これだけで利益率はぐんと改善した。

後日S店に伺った際に、何の機能が助かったかと聞いたら、「売れ筋が分かることだ」と断言された。最初は補助金ありきでの導入だったが、今では毎日数字を見る癖がついた、と笑顔が溢れる。頼れる背中に見えた。

POSレジは、飲食・小売にすさまじいイノベーションを起こす可能性を秘めている。商品別・時間別売上の分析や在庫管理機能まで搭載されたものもあり、アナログなやり方を改善できなかった店舗は、効率化が一気に進むはずだ。

小さいことからコツコツと。小さなデジタル変革を積み重ねていこう。

(つづく株式会社社長 井領 明広)

 


 

2022年、ペーパーレス経理に今度こそチャレンジ

第3回

 

「経理のペーパーレス化」と言われて久しい。大企業は基幹システムとして競い合うように導入を進めたが、小規模事業者には遠い話だ。しかし国も腰をあげ、スモールビジネスの経理の電子化をグンと進めてきている。

ペーパーレスのメリットは大きく2つある。1つ目に、肉体的・精神的な余裕が増える。決算前に、ダンボールの中からたった1枚の領収書を探すこともなくなる。請求書を印刷して封筒に詰め郵送、ミスがあれば再送…というばからしい対応も減る。クラウドで保管していれば、事務所に出向かず自宅でコーヒーを飲みながら作業ができる。売上アップやコスト削減の前に、まずは余裕づくりから始めよう。

2つ目は、経営に関わる重要な情報が得られることだ。例えば売上日報をイメージしてほしい。紙やエクセルで日々の売上を従業員に報告させているとする。その情報はあくまで「毎日の売上記録」に過ぎない。しかしこれらをデジタル情報として扱えば、昨年対比・商品別・時間帯別と、様々な角度で分析をすることができる。「ただの記録」が「売上を伸ばす情報」に進化するのだ。

しかし、こう言う人もいる。「いくら電子化といっても、領収書や請求書は法律があるから捨てられない」。かつては、そうだったかもしれない。しかし2022年、この「電子化」に大きくメスが入ることをご存知だろうか。

「電子帳簿保存法」という法律がある。本議論で関係があるのは「請求書・領収書」が破棄OKになる、という点だ。以前からある法律だが、2022年1月から大きく要件が緩和されることになる。この機会に「今度こそ我が社もペーパーレスにしたい!」と意気込む方々に向けて、取り組むべき方法を3ステップでお伝えしたい。

1段階目は「そもそもアナログを減らせ」だ。例えば消耗品もクレジットカードで購入する、請求書はPDFのメール添付や請求書作成ソフトから直接送信する、など。前提となる紙を半分、また半分と減らすのだ。「紙が多いから、スキャンしてAIに処理させたい」という声もよく聞くがこれは間違い。正解は「まずは人間の努力で減らせるだけ減らしてから」となる。

2段階目は「クラウドサービスの活用」。クラウド会計の中には領収書・請求書をスキャン管理できるものがある。当社は「freee会計」を活用しており、証憑はスキャンして袋にポイッといれるだけ。仕訳とレシートが紐付いてオンラインで管理されていて、税理士にもリアルタイムに共有される。税理士から「レシート見せて」と言われることもないし、原本はここ5年、一度も開かずに済んでいる。

3段階目が「電子帳簿保存へのチャレンジ」だ。経理の電子化の極地で、前述のようなクラウドサービスを活用しつつ電子帳簿保存の要件を満たせば、原本破棄の世界がやってくる。タイムスタンプや操作ログ(原本証明の機能)が実装されていれば、ついに日本の経営者は、紙ゼロ経理にたどり着く。

電子化に対して「費用対効果が乏しい」「メリットがわからない」などの理由で検討すらしない人も多い。しかし、そういった人でもスマホを手放せないし、ネット通販を多用しているかもしれない。身の回りのサービスが便利にIT化されている中で、自社の経営や従業員のワークスタイルだけ昔のままでいいと思っていると、時代についていけず人材獲得もどんどん難しくなっていくだろう。

まずは小さな一歩。領収書一つから、ぜひチャレンジしてほしい。

(つづく株式会社社長 井領 明広)

 


 

「今日できることから」でDXは成功する

最終回

 

本連載ではここまで、中小企業の業務の電子化やクラウド化、デジタルトランスフォーメーション(DX)などに言及してきた。しかし、どれだけ良い内容を知ったとしても実行しなければ絵に描いた餅に過ぎない。では、具体的に何から着手すれば良いだろうか。

これは異国語の学習に似ている。基本の文法やローマ字を覚え、そこからいち早く話せるようになるには、子ども同士のお喋りのような簡単な会話から練習すれば良いだろう。これはDXにも共通することで、私は常に「目の前の低いハードルから順に飛び越えよ」と伝えている。

経理業務ではどうやってDXを進めるべきだろうか。「仕訳をAIで自動化したい」「予算実績管理を自動化したい」など、大々的に改善したくなるのが人間の性だろう。しかし、テンキーを駆使したアナログな経理の歴史が長ければ長いほど、新しいシステムへの移行作業に抵抗する人間も増える。

では、経理における「低いハードル」とは何だろうか。ここからは発想の勝負で、観察力が物を言う。

経理の仕事は多岐にわたる。例えば、「お金を銀行から振り込む」という作業は、経理担当者が請求書を紙で受け取る→支払一覧カレンダーを作る→銀行から1件ずつ振り込む→会計ソフトへ仕訳を入力する、と、これだけ工程がある。ミスが許されないためそれなりに負担となるだろう。

しかし、この債務管理、支払管理の領域だけでも様々なクラウドツールが存在する。代表的なもので、「invox」「LayerX invoice」「Sweep」などがある。債務を一元管理するだけでなく、スキャンによる文字解析など入力補助機能も搭載されている。会計ソフトをいきなり替えることにより、アナログな工程を一つずつデジタルに置き換える方が余程簡単なはずだ。「支払い程度の効率化だけでは、抜本的に生産性が上がらないのでは」という意見もあるだろう。経理全体のデジタル化を“一気に”、“ガラッと”進めたくなる気持ちも分かる。しかし、基幹部分にいきなりメスを入れる心の準備が、経理部長・担当者含めて整っているだろうか。まずは経理担当者に「私にもDXができた」「DXって大事だね」「生産性が上がると幸せだな」という当たり前の感覚を経験させなければ、本丸の改革に着手する土壌は整わないと考えた方が良い。

今日からできることをおさらいしよう。まずは、課題を整理し、解決のアクションプランを書き出すこと。ここでは数を出せるかが勝負だ。課題を出し切ったら、解決のハードルが低い順から並べる。たとえ些細な改革に見えても、最初は簡単なことからなすべきである。

経理の本質は事務作業ではなく、経営者に会社の状況をリアルタイムに報告し、経営者に意思決定やアクセルを踏むタイミングを示唆することにある。経理の効率化によって単純作業から解放され、「事務部門」から「数字を使った経営者のアシスト部門」へと生まれ変わることができるはずだ。

DXは一日にしてならず。DXは経営者一人の力では成されず。あなたの未来は、目の前の、ほんの砂粒ほどの些細な改善が鍵を握る。

(つづく株式会社社長 井領 明広)

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